IBIS-AMIモデルを用いた解析フロー

IBIS-AMIモデルを用いた解析フローは基本的に通常のIBISモデルを用いた解析とほとんど同一です。

1.シミュレーション目的の決定

シミュレーションを行う前に、まず目的を決めましょう。例えば以下の様な目的があります。

  • 基板材料選定
    低伝導損失な基板材料を使う必要があるか、FR-4で大丈夫か。
  • 配線条件の検討
    配線層や線幅、スルーホールビアの個数やスタブ削除の要否。
  • コネクタやケーブルの選定
    伝送可能なコネクタの選定、同軸ケーブルやフレキ基板の使用可否。
  • トランスミッター(Tx)、レシーバ(Rx)の設定
    アイパターンの開口が最適となるエンファシスやイコライザの強さ。

2.シミュレーションに必要な資料準備

シミュレーションに必要な資料を用意しましょう。一般的に必要と考えられる資料をまとめましたので、参考にして下さい。

  • 回路構成
    構成部品、トポロジ等。
  • 層構成情報
    銅箔の厚み、基材の厚み、レジスト厚み、比誘電率、誘電正接等。
  • 配線条件
    線幅、配線層、スルーホールVIA 形状、配線間隔等。
  • データレート
    対象とする信号のデータレート。

  • 閾値情報
    アイ開口特性、BER性能等の値。
  • IBIS-AMIモデル
    トランスミッタ、レシーバーの特性を表したモデル。
  • その他のモデル
    コネクタ、ケーブル、受動部品等の伝送路特性を表したモデル。

3.IBIS-AMIモデルの入手

IBIS-AMIモデルを用いた解析を実行するには、IBIS-AMIモデルを入手する必要がありますが、IBIS-AMIモデルは主に以下の方法で入手が可能です。

  • 方法1. ICベンダのWebサイトからダウンロードする
    ICベンダのWebサイトにシミュレーションモデルが公開されている場合は、そちらから入手します。この際、閾値情報が記載されているデータシートも併せて入手しておくと良いと考えます。

  • 方法2. ICベンダまたはその代理店に直接問い合わせを行い入手する
    直接、ICベンダへIBISモデルの問い合わせを行う方法となります。ICベンダのWebサイトにIBISモデルが公開されていない場合は、こちらの方法を試みてみるのが良いと思われます。

4.IBIS-AMIモデルの確認

入手したIBIS-AMIモデルに添付されているユーザガイドを確認しましょう。一般的に以下の内容が記載されています。

  • ファイル構成
    提供されているIBIS-AMIモデルのファイル構成。
  • モデルの対応範囲
    電圧振幅、イコライザの種類や特性等。
  • パラメータの説明
    解析時に設定できるパラメータと内容、設定値の範囲や意味、デフォルト設定値名地。
  • 推奨解析設定
    1ビットあたりのサンプル数(SPB:Samples Per Bit)、最小bit数等。
  • 解析例
    特定のシミュレータ、パラメータ設定での解析例等。

IBIS-AMI モデルにユーザガイドの添付がない場合は、部品ベンダまたはその代理店に問い合わせる事を推奨します。

.ibsファイルの確認

.ibsファイルの基本構造は、一般的なIBISモデルと同様に、以下の3つの部から構成されています。IBISのバージョン、注意事項、パッケージ情報を確認しましょう。

IBIS-AMIファイルの確認

IBIS-AMI 添付されているユーザガイドに記述されているファイルが一式揃っているか確認します。

  • ユーザガイドにファイル構成が記載がない場合は、.ibsファイルのコメントに記述されている場合もあります。
  • .ibsファイルの[Algorithmic Model]に記載されている.amiと.dllファイルがあることを確認します。
  • パッケージモデルファイルがあることを確認します。パッケージモデルは、Sパラメータで提供されるケースが多いです
  • IBIS-AMIモデルの場合、.ibsファイルのパッケージ情報は使用しません。仕様上、記述が必須となっている為、0または極小値が記載されています。

.amiファイルのパラメータ確認

予約語パラメータのInit_Returns_ImpulseとGetWave_Existsの設定値(True/False)を確認します。このパラメータは解析モードを決める上で重要なパラメータとなります。この他に、トランスミッタまたはレシーバで使用を想定している(または既に使用している)設定がある場合、その設定がIBIS-AMI モデルにおいて、どのパラメータで、設定値は何か、を確認します。逆にICの実製品では設定不可能な値が、シミュレーションでは設定可能な場合があるので注意しましょう。

  • 設定対象の例を示します。
    • 差動出力電圧
    • スルーレートコントロール
    • 内蔵終端抵抗値
    • プリエンファシスやイコライザの強さ
    • DFEのタップ数

テスト・シミュレーション

IBIS-AMIモデルのユーザガイドに解析例が記述されている場合は、解析例と同じ設定でシミュレーションを実施してみましょう。解析例と同等の解析結果が得られる事を確認します。解析結果が異なる場合は、設定を再確認します。解析例通りに設定していても解析結果が異なる場合は、部品ベンダやその代理店に問い合わせてみて下さい。但し、使用しているシミュレータや、シミュレータのバージョンが解析例のものと異なる場合、解析例通りの設定が不可能なケースや、解析結果が異なる事があります。

5.解析トポロジの作成

シミュレータ上で、解析対象に合わせたトポロジを作成します。作成例を下図に示します。

  • 主な入力対象(いずれもネットワークアナライザによる実測または電磁界解析によって得られたSパラメータを使用するケースが多い)

    • ICパッケージ
    • コネクタ
    • ケーブル
    • 基板(配線/スルーホールビア)
    • FPC

6.IBIS-AMIモデルのアサイン

シミュレータにより操作方法は異なりますが、まずはトランシーバ、レシーバにIBIS-AMIモデルをアサインします。

モデルセレクタ記述がある場合は、モデル名を選択します。

7.各種モデルの割り当て

次にIBIS-AMIモデル(トランスミッタ、レシーバ)以外のモデルをアサインします。周波数特性が考慮されているモデルを使用し、集中定数の部品モデルの使用は避けましょう。推奨するモデルの種類と入手方法は、以下の通りです。

  • 種類
    • Sパラメータ
    • Wエレメント(RLGCパラメータ)
  • 入手方法
    • 部品ベンダから入手
    • ネットワークアナライザを用いて実測
    • 電磁界シミュレータ(フィールドソルバ)を用いて計算
    • シミュレータに搭載されているモデルを使用(形状や物性等を入力)

8.シミュレーション条件の設定

IBIS-AMIモデルのパラメータとシミュレーション条件を設定します。主な設定項目を以下に示します。

  • 解析シナリオ(統計モード/タイムドメインモード)の選択
    • 統計モードでは、ビット・パターンを指定せずに無限のビット・シーケンスに対して確率計算を行います。トランスミッタ、レシーバが全てLTIである事が条件です。
    • タイムドメインモードは、ビットパターンとビット数を指定して解析を行います。NLTVな回路を扱う事が可能です。IBIS-AMIモデルのGetWave_ExistsパラメータがTrueの場合は、モデル供給元がNLTVな回路を想定している可能性が高いので、タイムドメインモードで解析する事を推奨します。
  • パラメータの設定
    • エンファシスの強さ
    • DFEのタップ数
  • 入力パルス(タイムドメインモードの場合)
    • PRBSパターン長
    • データレート
    • 1bitあたりのサンプル数(SPB:Samples Par Bit)

9.解析の実行

解析を実行します。解析例を下図に示します。IBIS-AMIモデルを用いた解析ではイコライザの影響を考慮した解析が可能となります。

10.条件を変更した再解析

条件を変更して再解析を繰り返し、最適な設計条件を探します。

トランスミッタのエンファシスの違いの確認例を下図に示します。

スルーホールビアの影響の確認例を下図に示します。