Power Aware IBISモデル

Power Aware IBISモデルとは、電源電圧のノイズを考慮する事が可能なIBISモデルです。IBISモデルは当初、デジタル信号の波形解析(主に分岐配線等による反射ノイズを考慮した解析)の為に、IC入出力特性のマクロモデルとして規格化されました。シグナルインテグリティ(SI)問題を引き起こしやすいインタフェースであるDDRメモリは、同時に複数のデータ信号がスイッチングする為、電源ノイズが大きく発生します。この電源ノイズを考慮してSI波形解析する為に、IBIS Version 5.0から規格が拡張され、電源ノイズに関するキーワードが追加されました。ここではPower Aware IBISモデルの概要と、使用する上での注意点を説明します。

Power Aware IBISモデルとは?

下図はPower Aware IBISモデルの模式図です。

緑枠内が従来のIBISモデルで表現されていた、バッファの入出力特性(Pull Up, Pull Down, Power Clamp, GND Clamp)です。これらに加えて新たなキーワードがIBIS Version 5.0で追加になりました。それは[Composite Current]、[ISSO_PU]、[ISSO_PD]の3つです。

[Composite Current]はバッファの電源端子に流れる立ち上がり/立ち下がり電流を時間軸で定義しています。Version 4.2と異なる点は貫通電流やプリドライバ、寄生成分に流れる電流も含めた全ての電流を考慮しています。

[ISSO_PU]は電源電圧を基準としたPull Up構造の実効電流を、[ISSO_PD]はGND電圧を基準にしたPull Down構造の実効電流を定義します。従来、この2つの構造はゲート間の電圧が固定された状態で取得されていました。実際のデバイスではゲート電圧も変動します。新しいキーワードはドレイン・ソース間を固定した新たなIV特性を定義しています。これによりFETの3端子間の非線形特性を表現し、電源/GND電圧の変動がドライバ駆動能力に与える影響を表現する事が可能となりました。

下図はPull Down構造の抽出方法の比較を示したものです。左は[Pulldown], 右は[ISSO_PD]の抽出方法を示します。

これら3つのキーワード[Composite Current], [ISSO_PU], [ISSO_PD]は、必須のキーワードではありません。

 

Power Aware IBISモデル利用の注意点

ここではPower Aware IBISモデルを利用する上での注意点を解説します。

1つ目はPower Awareに関する3つのキーワードは必須ではないという点です。IBISモデルの[Version]が 5以降で作成されていても、キーワードが必須ではない為、記述されていない可能性があります。使用する際はバージョンだけでなく解析対象のバッファモデルにこれらのキーワードが含まれているかどうかを確認する必要があります。

 

2つ目は電源ノイズを含めた波形解析をするには、Power Aware IBISモデルを使うだけでなく、Power Distribution Network(PDN)のモデリングが必要です。電源電圧の時間変化はV(t) = IFFT[Z(f)・I(f)]で表現されます。Power Aware IBISモデルの[Composite Current]で電流の時間特性が表現され、周波数特性もここから得ることができます。しかし、電源インピーダンスZ(f)はIBIS Modelには記載する手段がありません(バージョン6時点)。Z(f)がなければ電流は無限に供給出来る事になる為、電圧変動は発生しません。電磁界解析等によってPDNの特性をモデリングし、解析に加える必要があります。

3つ目は、同時スイッチングを考慮した回路を構成しなければならない点です。Power Aware IBISモデルはバスが同時にスイッチングする事による電圧ノイズを考慮する為に誕生しました。その為、信号を一本だけ解析しても電源は大きく変動しません。解析時はすべてのデータ信号の動作を考慮する必要があります。また、DDR4などにはDate Bus Inversionといった同時スイッチング数を制限する機能があります。電源ノイズの大きさに影響する為、IBISモデルに入力するスティミュラスも充分に検討しなければなりません。下図は同時にスイッチングする信号数の電源ノイズへの影響を検証したものです。

左は1本のみ、右は8本同時にスイッチングした場合の電圧時間変化とアイパターン波形を示します。1本の時と比較して8本を同時にスイッチングした場合は電圧方向のマージンが減少していることがわかります。

まとめ

Power Aware IBISモデルは同時スイッチングによる電源ノイズの影響を考慮した波形解析ができるIBISモデルです。正しく使うことで実際に起きている現象を可視化することができます。間違った使い方をすると結果は楽観的にも悲観的にもなります。本稿で記載したポイントに留意し、ぜひ製品設計に活用してみてください。