IBISのパッケージモデル
IBISにはパッケージに関する3種類のキーワードがあります。
- 多くのEDAツールでは、上記何れかのキーワードを使用することが可能です。
- キーワード毎に定義できるパッケージの特徴が異なるため、シミュレーションの目的に応じて適切なパッケージモデルを使用する必要があります。
IBIS model
図-3.1 IBISバッファモデル
Package
キーワード: | [Package] |
必須: | はい |
概要: | 全てのピンに共通で適応されるコンポーネントのパッケージモデルです。 1段の R、L、C (集中定数)で定義されます。 ピン間の相互結合は含みません。 |
図-3.2 [Package] の定義例
Pin
キーワード: | [Pin] |
必須: | はい |
概要: | ピン毎のパッケージモデルです。 1段の R、L、C (集中定数)で定義されます。 ピン間の相互結合は含みません。 |
図-3.3 [Pin] の定義例
Define Package Model
キーワード: | [Define Package Model] |
必須: | いいえ |
概要: | ピン毎のパッケージモデルです。 マトリクス形式のR、L、Cで表現されます。 Sub-Parameterの定義によっては、ピン間の相互結合を考慮できます。 このキーワードをサポートしていないEDAツールでは、この定義は無視されます。 |
- 以下の例では、パッケージモデル”test”がマトリクス形式で定義されています。
図-3.4 [Define Package Model] の定義例
Matrixの種類とMatrix定義
キーワード: | [Resistance_Matrix], [Inductance_Matrix], [Capacitance_Matrix] |
必須: | [Inductance_Matrix][Capacitance_Matrix]は必須。 [Resistance_Matrix]はオプション。 記述のない場合はゼロとみなされる。 |
Sub-Params: | Banded_matrix, Sparse_matrix, Full_matrix (引用:IBIS Ver6.1 P146~) |
概要: | サブパラメータはMatrixの開始とフォーマットを表します。 |
- Matrix定義
- 基板上の配線には小さなR,L,C成分が存在し、配線および配線間の相互結合の関係を定義するため、Matrix定義があります。
- また各Matrixのデータ量を小さくするためにサブパラメータがあります。サブパラメータはMatrix定義の直後に記述し、Banded_matrix, Sparse_matrix, Full_matrix のいづれかを指定できます。
- [Resistance_Matrix]
- パッケージの配線間の抵抗値をマトリクス形式で表現します。
- 抵抗値を考慮しないときは省略可能です。記述の無い場合はゼロとみなします。
- [Inductance_Matrix]
- パッケージの配線間のインダクタンス値をマトリクス形式で表現します。
図-3.5 Inductance_Matrix解説
- [Capacitance_Matrix]
- パッケージの配線間のキャパシタンス値をマトリクス形式で表現します。
図-3.6 Capacitance_Matrix解説
Sub-Parameter
- Sub-Param :Banded_matrix
- 他のピンとの関係が全て同一の場合、1つの定義で他のピンを定義します。
- 自分のピンのみ定義し、他のピンとの関係を定義しない場合には、[Bandwidth]を “0”と記述します。
記述例:
No coupling
[Resistance Matrix] Banded_matrix
[Bandwidth] 0
[Row] 1
10
[Row] 2
15
[Row] 3
15
[Row] 4
10
図-3.7 Banded matrix解説
(引用:2014 ASIAN IBIS Summit, Yokohama / Shinichi Maeda@KEI Systems)
- Sub-Param :Full_matrix
- 自分のピンおよび他のピンとの結合成分を全て記述します。
記述例:
All pins coupling together
[Inductance Matrix] Full_matrix
[Row] 1
3.04859E-07 4.73185E-08 1.3428E-08 6.12191E-09
[Row] 2
3.04859E-07 4.73185E-08 1.3428E-08
[Row] 3
3.04859E-07 4.73185E-08
[Row] 4
3.04859E-07
図-3.8 Full matrix解説
(引用:2014 ASIAN IBIS Summit, Yokohama / Shinichi Maeda@KEI Systems)
- Sub-Param :Sparse_matrix
- 指定したピンとの結合成分のみを定義し、指定しないところは”0”とします。
記述例:
Matrix between selected pins
[Capacitance Matrix] Sparse_matrix
[Row] 1
1 2.48227e-10
2 -1.56651e-11
[Row] 2
2 2.51798e-10
3 -1.56552e-11
[Row] 3
3 2.51798e-10
4 -1.56651e-11
[Row] 4
4 2.48227e-10
図-3.9 Sparse matrix解説
(引用:2014 ASIAN IBIS Summit, Yokohama / Shinichi Maeda@KEI Systems)
優先順位と特徴
- 優先順位
- [Define Package Model] > [Pin] > [Package] の順で優先されます。
- [Define Package Model] [Pin]のどらでも定義されていないPinは [Package] の値(Global)が適用されます。
- [Define Package Model]は、.ibsファイル内表記と、外部の.pkgファイル表記が許されており、両方ある場合は、.ibsファイル内表記が優先されます。
- 特徴
- [Package]では等価回路モデルが単純なR,L,C1段構造のため、数百MHz以上の周波数帯では 誤差が大きくなります。[Package Model]において多段R,L,C回路が使えるようになり、高周波帯 (GHz帯)の精度向上に有効です。
- [Package]ではPin間や配線間の結合が定義されていないため、クロストークノイズの解析ができません。[Define Package Model]の[Matrix]定義によりパッケージ内配線間の相互結合を考慮することができ、クロストークノイズの解析が可能です。
IBIS以外のパッケージモデル
- TouchstoneフォーマットのSパラメータで表現したパッケージモデルがあります。
- ピン間の相互結合を考慮した周波数依存の特性です。
- 高速シリアル IFのデバイスモデルとして、IBIS-AMIとともに提供されるケースが多いです。
図-3.10 Sパラメータモデル(Touchstoneフォーマット.sNp)の例
各種パッケージモデルの特徴
- パッケージモデルによって考慮できる特性が異なります。
集中定数 | 結合考慮 | 分布定数 | 高周波損失考慮 | ピン配列記載 | 規格 | |
[Package], [Pin] | 〇 | 〇 | IBIS | |||
[Define Package Model] | 〇 | 〇 | 〇 | IBIS | ||
EBD (ELECTRICAL BOARD DESCRIPTION) |
〇 | 〇 | IBIS | |||
S-parameter | 〇 | 〇 | 〇 | Touchstone |
図-3.11 各種パッケージモデルの特徴
※上記は全てIBIS Open Forumで管理しているもの。
この他にIBIS-ISS規格-モデルやLPB Forumで管理している記述法などあり。
パッケージモデルの比較例
- 下記のバスラインに対して、ドライバ/レシーバICのパッケージモデルを変えた場合のレシーバ端の波形をシミュレーションで確認します。
図-3.12 トポロジー
図-3.13 Rx2レシーバピン端波形
まとめ
- パッケージモデルについて
- IBISには3種類のパッケージモデルが定義されています。
- IBISの他にSパラメータで表現したパッケージモデルがあります。
- パッケージモデルにより考慮できる特性が異なります。